8/06/1999

The Sixth Sense

シックス・センス(☆☆☆☆)

数字の6がつくからといっても『セブン』や『8ミリ』のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーとは関係ない。

フィラデルフィア。児童心理を専門にし、その活動が高く評価されている精神科医の新しいクライアントは母子家庭に暮らす少年だった。少年はいつも何かに怯えているようで、友達や学校の先生たちも変人扱いをするのだが、彼には決して人に明かしたことのない秘密があった。その秘密とは、彼の目にはまわりを徘徊する死んだ人々がみえるということだ。Mナイト・シャマラン脚本・監督。主演はブルース・ウィリス、ハーレー・ジョエル・オスメント。

これは、まだ20代のMナイト・シャマランという男が、自ら執筆し、撮りあげた作品である。それがにわかには信じられないほど落ちつきをもった仕上がりで、必見の作品である。優れたスタッフと演技陣に支えられ、高いレベルで物語を紡いで見せており、その繊細な感性と見事な手腕には感心させられる。一種の怪談話だが、それだけに終わらない。観客の背筋を揮えあがらせながら、そして最後には静かに胸を打つ。 

まず秀逸なのはアメリカでは有数の歴史を持つ古都フィラデルフィアを舞台としたこと。レンガ造りの家並みや石畳、由緒ある建物。見事なデザインと造形。この舞台設定が控えめながら怪談話の雰囲気醸成に貢献しているのは疑いの無いところだ。聞けば監督の出身地と言う。街の雰囲気と、その魅力を知り尽くしているだけのことはある。

そんな街で、死者の魂にかこまれて怯えて暮らす少年。この子役の素晴らしさ。絶望と恐怖、諦めと希望。1本の作品を背負って立つだけの存在感をみせてくれる。また、大味なアクション大作とは一味違うブルース・ウィリスに、彼の役者としての真価を知らない多くの観客は驚くだろう。彼の人間味、落ちつき、悲しみを湛えた眼。母子家庭の少年に欠けた父性を体現するかのような包容力。ブルーノは決してアクション馬鹿ではないのだよ。うん。

この完璧な舞台と繊細な演技を落ち着いた色調と安定した構図で切りとって見せるのは『フィラデルフィア』でも一度この街に取り組んだタク・フジモト。演出は意図的に色の数をコントロールしているのだが、そのあたりの意を汲みながら、完璧な仕事をして見せる。また、単独で聴くには弱いがしっかりとドラマをサポートするジェームズ・ニュートン・ハワードのスコア。

もちろん、それらをまとめ上げているのは、あせらず、急がずに、一つ一つエピソードを自信に満ちた足取りで積み上げていく、この監督の語り口だ。なかなか見えない・見せないことで戦慄を運ぶ、恐怖を醸成するじらしのテクニック。どこをひとつとっても一流の仕事ぶりである。

114分の戦慄と感動。大作ホラー映画のコケオドシが霞んでしまう。かつての患者を本の意味で救うことが出来なかったことを知らされて傷つく精神科医。ゴーストに怯える少年を救ってやりたくても己の限界に直面し、仕事に打ち込むほどに妻の愛情が冷えていくのを感じるこの主人公は、少年の心を、自らを救うことが出来るのか。これは、ちょっといい話だ。怖いのが苦手な人にもぜひ、薦めたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿