11/28/2008

Happy Flight

ハッピーフライト(☆☆☆☆)

見事なプロフェッショナル賛歌である。それぞれが、それぞれの持ち場で、果たすべき役割をきっちり果たす姿の、その清清しさ。働くこと、責任を果たすことの美しさ。そして、映画的な大事件を持ち出さずとも、日常のディテールをきちんと積み重ねていくだけでかくも映画的な映画ができるという面白さ。ここには、単なる薀蓄映画を超えた面白さと感動がある。

この映画の面白さは、一義的には「飛行機を飛ばす」ことに関わる人々とその仕事ぶりを、表も裏も、徹底的なリサーチによって表舞台にのせたことにあるわけで、そこにかけられた手間隙もさることながら、協力したエアライン会社(ANA)もまた賞賛されてしかるべきだろう。

ただ、この映画の良いところは、研究発表会に終始する愚を冒さなかったことだ。多少の誇張や偶然をスパイスに、「一本のフライト」に多彩な人々の「仕事」を凝縮してみせた脚本の小気味よさと、その群像劇を支える絶妙のキャスティングによって、映画として、エンターテインメントとして、きちんと消化されているところが素晴らしい。

特に、個性的な役者を適材適所に配置してみせる目利きの確かさに惚れ惚れしてしまう。こういう映画で必要なのは例えタイプキャストといわれようとも、一目見てわかる画的な分かりやすさがポイントだ。たとえば、指導教官が小日向文世から時任三郎に交代するにあたり、時任演ずる教官がどのような人物か知らなくても、そこに立っている彼という「画」を目にした観客が一瞬で事態を把握できること。たとえば、寺島しのぶがそこに立つだけでピリッと走る緊張感を、綾瀬はるかのみならず観客もまた共有できるということ。キャスティングがキまっていれば、余計な説明は要らない。テンポの良い映画に仕上がっているのは、そんなところにも理由があろう。

矢口史靖監督がよくやる大げさでわざとらしい「コメディ」演出を封印していたのは好印象であった。本作では、あくまで「ある状況」におかれたプロフェッショナルたちの、しかし、とても人間的なリアクションが程よいユーモアとなっていて、洗練された仕上がりだ。そう、プロの仕事を見せるのに、作為的なドタバタはいらない、その判断は絶対的に正しい。

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