12/21/2010

Norwegian Wood

ノルウェイの森(☆☆★)

おそらく、本作にわりと否定的な世間の雰囲気を思えば、当方、そこそこ楽しませてもらったほうなんだと自覚しているのだが、それでも、わからないのだ。この映画を今、敢えてこの時代に作ることの意味が。出来上がった作品はある部分興味深く、ある部分退屈な凡作だと思っている。が、この映画を作ろうという企画意図は、映画を見終わった今、余計に分からなくなってしまった。まあ、それはさておくとしよう。

しかし、ゴージャスなルックの映画である。舞台にしている時代の雰囲気を醸し出そうと細かいところにお金がかかっている。そこらへんの邦画にはない感じ、というのは、もちろん異邦人である監督や撮影監督の感性や技術だったりによるところが一番大きい。ご存知のとおり、本作の監督はパリ在住のベトナム系、トラン・アン・ユンで、撮影監督は『夏至』で監督と組み、最近では『空気人形』でも素晴らしい仕事を見せてくれたリー・ピンビンだ。しかし、それと同時に、美術やセット、衣装などに対して贅沢に、使われるべきお金がしかるべく使われた結果でもあるのだろうと想像する。

いや、もしかしたら、小説で記述されたリアルな話し言葉としてはいささか不自然に聞こえないでもない台詞が、役者の口からそのまま語られることの異化効果とでもいうべきものが、案外効いているのかもしれない、と思ったりもする。この映画が放つ、何か作られたものであるという感じ、人工的な雰囲気は大変に特徴的なものだが、原作を尊重した結果なのかどうか、そういうスカした書き言葉を話し言葉として使う効果に自覚的であったかどうかは全く分からないけれども、ここにある何か普通ではない世界は、そうした様々な要素を積み重ねた結果、獲得したものであるのは間違いあるまい。

一応紹介すると、お話しは単純。学園紛争で騒然とする時代。自殺した親友の幼なじみであり恋人だった女性と関係を持ったあまり主体性の感じられない主人公が、精神を病んで療養所に入ったその女性への思いを断ち切るわけでもなく、キャンパスで出会った別の女性にも惹かれ、曖昧に関係を続けるうちに悲劇が起こる、という感じ。違う?えー、まあ、原作未読なのでご勘弁を。

原作や原作者に強い思い入れのある立場だと、本作のキャスティングには色々言いたいことも出てくるようだが、そうではない当方としては悪くないんじゃないの、と思う。キャストは皆、熱演をしているようにも見えるし、演技らしい演技をさせてもらえていないようにも見える。主人公を演ずる松山ケンイチの、どっちつかずで低体温な感じはすごく良いし、ほとんど演技経験のない水原希子なんか、たぶん一生懸命頑張っているに違いない演技はそんなに上手くないのだが、その雰囲気と存在感は映画の重要な構成要素になり得ているというあたりが面白いものだと思う。

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