2/06/2011

The Town

ザ・タウン(☆☆☆★)


地元の狭いコミュニティで、代々当たり前のように銀行強盗を繰り返しているグループの実行犯のリーダー。成り行きで人質にとったのちに開放した銀行職員の女性が近隣の居住者であることを知り、念のため様子を伺うことにして近づいたところが、次第に女性との交流が深まっていき、今いる場所と生き方を捨て、彼女と共に新しい人生を始めたいという思いが強まっていく。しかし、義理、人情、周囲のしがらみがそれを許さない。FBIの捜査の手が迫る中、レッドソックスの本拠地フェンウェイパークを舞台に最後の大仕事が始まる。

まあ、有り体に言えば、組織を抜けて堅気の女と一緒になろうと夢見るヤクザの話、のようなもんか。

ボストン出身で、デニス・ルヘイン原作の『Gone Babe Gone』 で(日本では劇場未公開ながら)見事な監督デビューを飾ったベン・アフレックが、再び勝手知ったる地元を舞台にした犯罪ドラマを手掛けた。本作の舞台となるCharles Town は、同様にボストン市街の周辺部に位置する South Boston (『The Departed』, 『Good Will Hunting』 の舞台), Dorchester (『Gone Baby Gone』 の舞台) と並んでガラの悪い、あまり治安の良くないイメージのある場所だ。本作中、刑務所内で3つのエリア収監者での覇権争いがあるというような台詞があって、そんなものかと納得してしまっていいのやら、どうなのやら・・・・と思っていれば、エンド・クレジット前の申し訳なさそうなexcuse に笑いを禁じえず。そうだよね。

この映画、派手なイベント映画ではないが、ドラマに見応えがあるし、アクションもいい。前作ではあまり大掛かりなアクション・シーンはなかったが、本作は冒頭の銀行強盗のシーンに始まり、市街地でのカーチェイス、クライマックスでの大銃撃戦などが盛り込まれ、低予算ゆえの「リアル」な撮影が迫力を増している。アクションシーンは長尺版よりも短くカットされているというが、劇場公開版でも物足りなさは感じない。特にカーチェイスはよくできていて、米国の街にしては欧州風でもあるボストンの狭い路地でのアクションは見応えがあった。フェンウェイでの銃撃戦もかなり壮絶だ。お手本にしたらしいマイケル・マンの『ヒート』風味を感じさせる。

キャスティングがいい。役者の実力が十二分に引き出されている。恐るべき花屋のオヤジを演じるピート・ポスルスウェイトの貫禄、幼馴染の兄弟分を演じる単細胞で凶暴なジェレミー・レナーの化けっぷり、その妹で主人公の愛人状態になっているブレイク・ライブリーの安い崩れっぷりと色気なんかは特にいい。役者の力を借りながら、映画で描かれていない、もしくは公開版からはカットされてしまったキャラクターの背景や厚みをにじみ出させることができている。ベン・アフレックの映画にまつわるエピソードでは、前作でも「ところで君、一体ボストンのどのあたりの出身なの?」と勘違いされるほどに「訛り」をマスターしてくる役者がいたのだが、本作でもまた同様、カリフォルニア育ちのブレイク・ライブリーの真に迫った訛りっぷりに本気を見る。

俳優としてのベン・アフレックは不思議な人で、CIAの分析官、などという頭のよさそうな役を演じると阿呆っぽく見えるのに、地元のチンピラというような頭の悪い役を演じるとどこか賢く、格好良く見える。本作における彼は後者。ジェレミー・レナーと比較すると顕著で、吹き溜まりの中で一人だけ、格段に理性的に見えてしまうのである。実はそこが本作ではうまく効いていて、かつて街を出るチャンスをモノにしながらふいにした経緯や、家庭の事情などのバックストーリーが明らかになるにつれ、この男が「よそもの」である女性に惹かれ、人生をやり直したいと願う気持ちの切実さが伝わってくる。

この映画のエンディングは原作とは異なるが、この改変が許容範囲だと感じられるのは主人公のキャラクター、ひいてはベン・アフレックの個性ゆえだろう。脚本を書いた出世作『Good Will Hunting』 では街に残って見送る側だったアフレックだが、ここにはあの作品のエンディングのテイストも遠くで二重写しになっているように思えたりもするのである。

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