2/27/2011

The King's Speech

英国王のスピーチ(☆☆☆☆)


指導者の言葉の重さ。望んだわけではない地位と重責。抑圧された屈折と全てを受け入れる覚悟。理解と友情。

『英国王のスピーチ』は掘り起こされた大変に興味深い歴史的な事実を、的確な脚本と素晴らしい役者たちの人間味溢れる演技によって手堅く描いた良作である。突出しているとまでは思わないが、前評判無しに見たらその出来栄えに喝采したことだろう。

冒頭で描かれる「閉会の辞」の件で絶望的な状況を的確に描出して見せたあとの本題への流れるような導入。節目節目となるイベントの描写を省略し、最後の最後、冒頭とついになる形での「開戦の辞」に向かって全てを盛り上げていく構成も王道なら、対立と和解を繰り返しながら互いへの信頼と理解を深めていく2人の男のドラマとしても、唐突に罵詈雑言と歌が交じったり、いかにも英国的なユーモアのセンスが溢れでたりする爆笑コメディとしても、面白い。開戦前夜、霧のロンドンの雰囲気を出した美術から撮影まで、なかなか丁寧に作られていて隙がない。

しかし、題材の面白さを横におくならば、本作はやはり俳優のための映画であろう。

King's English で、しかも吃音で、人前で話すことのプレッシャーやフラストレーション。端々から透けて見えるジョージ6世の半生。国民のために運命を受け入れようとする覚悟。それらを語らずして見せる演技はやはり圧巻だ。ここ最近の出演作の全てで好演しているコリン・ファースの脂の乗り切った名演を堪能させてくれる。一方、堂々たる態度で自分のやり方を通す「決してドクターとは呼ばせない」言語矯正の専門家を演じるジェフリー・ラッシュ。彼自身も役柄と同じく(植民地)オーストラリアの出身だが、注意深く耳を傾けないと分からない程度のわずかな訛りを残た話し方で、この人物の一筋縄ではいかぬ半生までも演じきる。久々に本領発揮といったところだろうか。

映画はこの2人のためにあるようなものだが、父王ジョージ5世にマイケル・ガンボン、妻にヘレナ・ボナム・カーター、チャーチルにティモシー・スポールと英国名優目録と化した「ハリー・ポッター」組から3人出演している他、兄にガイ・ピアース、大司教にデレク・ジャコビと脇にもいいキャストが並んで安定感が抜群である。

いってみれば、特殊な時代、とても特殊な状況に置かれた男たちのドラマではある。ニュース・フィルムに撮されたヒトラーのアジテーションを見て、「内容はわからないが、たいへんスピーチが上手いようだ」と感想を漏らすシーンがあるが、戦争の影がひたひた迫る時期、国家のリーダーとしての言葉の重さや主人公に課せられた責任の重さであったりという、「状況」をこれほど端的に見せる秀逸なシーンもあるまい。ちょっとした発表やらプレゼンテーションとはワケが違うのだ。

そうはいっても、観客にとって身近で卑近な事例とでも難なく二重写しにできてしまう間口の広さが本作が人気を勝ち得る理由ではあろう。好感を抱くことのできる人物たちが、目の前の困難に必死で立ち向かい乗り越えていく、あるいは、男同士の信頼と友情、そういう物語には、誰にでも感情移入しやすいものだ。

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