11/20/1998

A Bug's Life

バグズ・ライフ(☆☆☆☆)

『トイ・ストーリー』の大成功から3年、CGIによる長編アニメーションにより、業界の様相を一変させたピクサー・アニメーション・スタジオ製作、ジョン・ラセター監督の待望の新作がやってくるというので、子供の映画と言われようがなんだろうが、これを見逃す手はあるまい。喜び勇んで劇場に駆けつけた。

Bug ってのは「虫」のことなのだが、CGIアニメーションだというので、コンピュータ・プログラムの「バグ」に引っ掛けて、そんなノリで始まった企画ではあるまいかなどと思っていた。そしたら、「アリとキリギリス」風に幕を開けた物語が、『七人の侍』になったかと思えば、実は『サボテン・ブラザーズ』だったという、なんともはや、これまた面白い映画を作ってくれたものだ。

夏の間遊び暮らすバッタどもと、冬を前に収穫に励むアリたち。バッタたちは秋がきても平気だ。盗賊団よろしく、アリたちを脅し、搾取しているからなのだ。アリたちは、必死で蓄えた収穫物を、貢物としてバッタに差し出している。その貢ぎ物を、ちょっとしたヘマから台無しにしてしまった主人公のアリは、バッタと闘うための助っ人を呼んでくることを主張し、旅に出るのだった。

ピクサーの映画が、今、技術的な最高水準を走っていることには疑いの余地はない。比較的無機質な描写で済んだおもちゃの世界とは違い、自然が相手の今回は、相当レベルの高いことをやっているんだろう。もちろん、そうした技術の裏打ちがあってこそなのだが、ピクサーの映画が面白いのは、ともかく、脚本のクオリティの高さによるものだろう。そういうスタジオの個性は、2本目の今回で明らかになったといえる。

サービス精神に溢れ、娯楽映画の基本をはずさないストーリーテリングの見事さ。数多いキャラクターの個性の描き分け。経験不足ゆえになにをすべきかわからず右往左往するプリンセス、お転婆で好奇心旺盛なプリンセスの妹、助っ人のムシたち、迫力と愛嬌を兼ね備えた悪役たち。それぞれ米国のアニメにしてはデザインも愛らしく、一度見ただけでも愛着が沸いてしまうはず。

そして主人公。「僕のやったことはなんでも裏目に出る、何一つ役に立ったことなんかないんだ」と落ち込むシーンは、うっかりしていると涙腺を刺激されてしまった。CGのアリだぞ。ちきしょう。

アリのコロニーの描き方が面白い。よくあるような「画一的な集団主義」として描かれているのではなく、「チームワーク」というポジティブな描き方になっているのだ。そして、主人公の活躍を、「個人主義の集団主義に対する勝利」という、従来ありがちだった図式に持ちこまない。「多様性とチームワーク」の物語なのだ。このあたりには、米国の企業経営のアプローチがドラスティックに変化を遂げつつあることも反映されているように思ったりする。

バッタの親分に対して一生懸命責任逃れをしようとする若きプリンセスに対してバッタが一言、「部下の責任はみんなリーダーの責任だ」とのたまうあたり、経営責任をとらずに居座りつづけるダメな企業の経営陣に聞かせてやりたい痛快さ。そういうピリッと効いたセリフが物語から浮くことなく、隠し味として効いていて、子供をつれて劇場にいった大人のお楽しみになっている。

英語版はケヴィン・スペイシーやデニス・レアリーらの芸達者で華のある俳優と、アニメの世界のベテラン声優混成の適材適所なアンサンブル・キャスト。音楽の担当は『トイ・ストーリー』と同じくランディ・ニューマン。この人の音楽なしにはまた、この作品の成功はなかっただろうと思わせる変幻自在の楽しいスコアだ。

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