11/20/1998

Enemy of the State

エネミー・オブ・アメリカ(☆☆☆★)

邦題、「国家の敵」じゃダメなのかね。

ジェリー・ブラッカイマー製作、トニー・スコット監督の新作に主演するのは、ウィル・スミス。(もともとトム・クルーズ主演で考えていたが、キューブリック作品の撮影が長引いて出演不可能になってしまったらしい。)国家権力による陰謀と、情報化社会におけるプライバシーの侵害に対する不信と恐怖をテーマにした、なかなか面白い巻き込まれ型サスペンスに仕上がっている。

ベテランの上院議員の殺害現場が、予想もしないところでビデオに撮影されていたというのが事の発端である。その奪回のために諜報組織が動き出す。DCで労働争議を専門にする弁護士である主人公は、たまたまビデオをめぐる追跡劇の現場に居合わせたことで、それに巻き込まれてしまうのである。一挙一動が国家の完全な監視の対象にされ、情報操作によってすべてを失った主人公は、力強い味方を得て、毅然と反撃に出ることになる。

個人の生活が徹底的に監視され、情報操作で簡単に破壊される。逃げても逃げてもそこには常に誰かの目が光っていて追手が現れる。そんな作品のプロットは、もちろん、それほど新しいものではないかもしれない。最近好調なトニー・スコットは、この話をどう見せるか、というところで本領を発揮、リリングでかつ骨のある、スタイリッシュな第一級の娯楽大作に仕上げてくれた。クライマックスで自己パロディをかます余裕も見せるっていうんだから、もう、文句のつけようがない。

脇役がいい。政府組織のヘッドにジョン・ヴォイト。彼の下に実行部隊として各々専門性を持ったハイテク・ヲタクのチームがいる。このチーム、スパイ衛星を動かしもするが、盗聴装置を仕掛けたり、変装して現場に出たり、案外ローテクなこともするから、まさに、逆「スパイ大作戦」状態だ。『ミッション・インポッシブル』で悪役に転じたフェルプスが上司ってんだから、そういう気分にならざるを得ないよね。

また、追い詰められた主人公を助ける謎の人物にジーン・ハックマン。このキャラクターの若かりし日の写真として、『カンバセーション 盗聴』の時のものが用いられているが、まさしく、それを彷彿とさせるプロフェッショナルなキャラクターとして登場するのだから、面白い。なにやら分けありの人物として画面に登場した途端に役者としての格の違いを感じさせるが、あくまで脇役という立場を心得た演技っぷりがまた渋いのだ。

ジーン・ハックマンと仕事をしたくて出演したというウィル・スミスだが、軽快さと親しみ易さが彼の得意とするところ。好みからいえば必ずしも彼でなくても良いのだが、「巻き込まれた一般人らしさ」、「いざというときに起点の働く頭の回転の良さ」という意味で、このキャスティングは悪くなかったと思う。

毎回やりすぎのスコット弟の映像作りだが、今回もその点、いかにも彼らしいものになっている。ただ、ハイテクを使った盗聴、盗撮、追跡という作品のプロットと彼のスタイルがハマったことでパラノイア的な不信感と恐怖感の増長に成功し、例によって極端に短いカットつなぎが、追跡劇に疾走感を与えていることで、うまく作用したと成功例になったといえるだろう。社会的な警鐘を含んでいながらも、それはあくまで背景設定とし、娯楽演出に徹した潔さが本作の取柄だろうね。

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