11/13/1998

Living Out Loud

マンハッタンで抱きしめて(☆☆★)

アパートで守衛をしている男は、男手で育てた愛娘を最近失ったばかり。そのアパートの住人である女は、長年連れ添った夫の裏切りで離婚に至ったばかり。この二人の人生がエレベーターのなかで交差し、互いのフラストレーションやささやかな希望などを語り合ううち、次第に親しくなっていく。

少しロマンティックで、可笑しくて、しっとりとしたコメディ・ドラマ。 本作に主演しているダニー・デヴィート主催の「ジャージー・フィルムズ」の作品だが、このプロダクション・カンパニーは常に意欲的な作品を発表してくるから面白い。今回は、ぐっと大人のムードを漂わせた、少し興行的には難しそうな作品である。ハリウッド的な安易な出口を用意せず、ちょっとした節度とほろ苦さが残るさじ加減がいい感じではあるのだが。

脚本・監督はリチャード・ラグラヴェニーズの脚本・監督作品。主演はホリー・ハンターとダニー・デビートだが、無視できない重要な脇役、ジャズ・クラブのシンガーとしてクイーン・ラティファーが出演。

無残な結末を迎えた結婚の後遺症を引きずる主人公の女性が自分らしく活きる力を獲得していくまでを描く映画である。

で、本作は、ともかく、リチャード・ラグラヴェニーズだ。なんだか舌がこんがらかりそうな名前のこの人、紐解いてみると『フィッシャーキング』や『マディソン郡の橋』『モンタナの風に抱かれて』の脚本家で、本作が監督デビューだ。そう、これは「脚本家」の映画なんだな。

これまでの作品歴でも分かるように、大人の観客に染みる台詞を書くこの人らしい作品である。良く練られた、少し洒落っ気のある台詞とダイアローグによって綴られていく映画。どのシーンも会話を中心に組み立てられ、会話を中心に進んでいく。ジョージ・フェントンのジャジーな音楽にのせて。

はっとするような演出はない。繋ぎや構成に少々ぎこちない部分もある。しかし、良いダイアローグを良い役者が口にすれば、良い映画になるという強い信念がそこにあるかのようである。また、その信頼を委ねられた、いうまでもなく演技巧者である主演の二人。この映画から漂ってくるのは、そんな両者の信頼関係に基づいた、濃密で、幸福な空気である。

全身で演技をするホリー・ハンターは、主人公の少し饒舌ともいえる台詞を、リアリティを損なうことなく、痛々しさも、力強さも、体現してみせてくれて、改めて、とても魅力的な女優さんだと思う。すでに若くはないし、女であることを特に売り物にしているわけでもないのに、この人からは経験を重ねた女性にしか出せない色気を感じる。本来、小柄なホリー・ハンターが、もっと背の低いダニー・デヴィートの禿げた頭を撫ぜるシーンがあって、面白かった。

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