11/22/1998

In & Out

イン&アウト(☆☆☆)

昨年秋(97/9)公開の作品だが、遅ればせながら見る機会に恵まれた。フランク・オズ監督のコメディ映画だ。

主人公は、田舎町で高校の教師を勤めている。その教え子のひとりは、今や人気抜群の映画スターになっていて、ゲイの兵士役を演じてアカデミー賞を受賞。その受賞スピーチで、「高校時代の恩師に感謝したい。彼はゲイなんだ。」とやらかしたため、さあ大変。保守的な田舎町は蜂の巣を叩いたような大騒ぎになってしまう。

話そのものは、他愛ないといえばそんなところである。アカデミー賞の舞台で、受賞者がゲイだった高校の先生に感謝を述べたのを見て、「もしそれが勘違いだったらどうなるか?」、というのが発想のもとだったという。

いまどきのアメリカで、「ゲイ?」というだけで大騒ぎという話にするために、保守的なインディアナ州の小さな(一見罪のない)田舎町が舞台に選ばれているのが絶妙な感じである。もう少し南に下れば主人公はリンチにあって殺されてしまうやも知れず、とても軽快なコメディにして笑っている場合じゃない。もっと都会だったりすれば、時代錯誤な雰囲気になってしまう

もちろん、社会風刺的なところを抜きにはできない題材ではあるが、作り手も、社会性・風刺性を前面に押し立てて声高に叫ぶような「社会派」気取りではない。微妙な問題をネタにしているという自覚と配慮は失わないまでも、コメディだという割り切りがあるのではないか。そのことがかえって軽快な作品として結実しているように見える。

で、話の発端を聞いているとそんなものか、と思うだろうが、例えていえば「思いもよらず二重スパイであることが露見したスパイ」の話のようであり、そのもつれ方がなかなか面白い。そして、思いもよらず振りきれて割り切ったエンディング。ふとしたきっかけからどんどん加速して転がっていく物語運びの妙。なんだかんだといって、やはり現代であるから成立した映画だなぁ、と思わせる映画になっている。

派手さとは無縁だが、ゲイ達者な役者たちが繰り広げる珍妙な演技合戦が本作の見どころである。主演は「ゲイ達者」なケヴィン・クラインだ。この人は本当に巧い。昔はシリアスな役者として活躍していたが、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』で振りきれてからというもの、コメディ分野での活躍はご存知のとおりだ。そして、芸能リポーター役に、男臭いアクション派のトム・セレックを持ってきた。人気スターになった教え子役にマット・ディロンというやや中途半端な感じも面白い。私が一番面白かったのは、名コメディエンヌであるジョーン・キューザックの捨て身の演技。ああ、もう、最近ではこの人が脇で出ているというだけで、その映画を見たくなってしまうほど好き。

監督のフランク・オズという人は、マペットの操演で知られ、もちろん、あの「ヨーダ」を動かし、声を与えた人物であるのだが、実写映画の世界では、これまでのところコメディ演出の名手といえる。今回、彼にしてはちょっとマイルドかとおもうのだが、予期せぬときに「他人によるカミング・アウト」をうけた主人公と婚約者の絶句状態のリアクションなど、普通より長めのタメがあって、なかなか意地が悪いところがいい。マット・ディロンの恋人であるスーパー・モデルのアーパーぶりなどに見られる、「毒」のある演出ができる人だと思って、いつも新作を期待している。

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