11/12/1998

The Siege

マーシャル・ロー(☆☆★)

アラブ系の過激派のリーダーを米軍が密かに捕らえ、拘束した。それをきっかけとしてNYの街がテロの嵐に見まわれる。FBIは支部がテロの標的になり崩壊、コントロールを失った政府は戒厳令を敷き、混乱した街に軍隊が出動する。アラブ系住民は明確な理由もなく全員拘束され、アメリカの標榜する「自由」は過去のものとなった。

映画の中での描写をめぐるアラブ系市民からの(少々見当違いな)抗議もあり、タイトル、公開時期ともに2転3転していたエドワード・ズウィック監督の「問題作」である。

この映画に対する抗議というのは、アラブ系(というかイスラム系)とテロリズムを結びつけ、罪もないのに彼らが拘束される展開に向けられていたようである。だが、この映画が語ることは、そういう先入観やステレオタイプの存在、それがもたらしうる行動の危険性である。、実際にオクラホマでのテロでアラブ系が真っ先に犯人として疑われたことなども含め、権力側のそうした動きに対しての警鐘を鳴らしてこそいても、そうした行為や行動を正当化したり当然視するものではない。

もちろん、そうした意味で、たいへんに社会的なメッセージ性の強い野心作である。

しかし、この映画は大スターをキャスティングした娯楽作品としての顔を持っている。監督とは『グローリー』という佳作を作って以来これで3度目の顔合わせとなるデンゼル・ワシントンをイメージ通りのヒーローとして、最近では一般にアクション・スターと認知されているブルース・ウィリスを限りなくグレーな悪役として起用した。そして、絶対にただのヒロインで終わらないアネット・ベニングもキャスティングされている。

ただ、どこかで生真面目なズウィックの資質が裏目に出たのか、メノ・メイエスやピューリッツァー賞作家のローレンス・ライと共同名義になっている脚本が悪かったのか、せっかくスターが共演しているのに、娯楽映画としてのツボを押さえきれていない。少なくとも、キャスティングにひかれて劇場に足を運んだ観客の興味には応えられていない。

思うに、戒厳令、軍隊出動のタイミングが遅いのだ。そのような状況にリアリティを与えるために、最初のテロの発生からそこに至るまでを丁寧に描いているのだが、その手数が多すぎて、退屈してしまうのである。

もちろん、作り手の狙いは単純な活劇にあるわけではなく、もし、こんな自体が起こったら何が起こるのか、それを精緻にシミュレーションしてみたかったのだろう。それならそれとして、テロの操作にあたるプロセスを、もう少し活劇として見せる工夫が必要ではなかっただろうか。

話を複雑にした原因のひとつはアネット・ベニング演じるCIAのキャラクターとしての微妙な立て付けにもあるのだが、この、ある意味で難しい役柄に血肉を与え、リアルな人間にしているベニングはさすがに巧い女優だと思う。ブルース・ウィリスはなかなかの貫禄で、軍を掌握する立場としての不気味な恐ろしさを出している。それに比べると、いつもの通り、「アメリカの良心」を演じることを求められているデンゼル・ワシントンは、まさにいつもの通りでしかない。そろそろ、本人もこういう役柄に飽きてきやしないものだろうか。

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