9/13/2008

Departures

おくりびと(☆☆☆★)

TV局(TBS)が製作に絡んだ作品としては例外的といってよい評価だったのではないか。モントリオールで最高賞を獲得した勢いに乗って公開された『おくりびと』を上映する公開直後の劇場の場内は、普段映画館ではみかけない熟年カップルなどで満席に近く、その熱気に驚かされると共に、題材に対する興味の高さも感じさせるものだった。彼らも概ね満足したのではないか、と思う。大々的に宣伝される騒がしいばかりの洋画や、TVドラマの延長に過ぎない邦画ヒット作に馴染めなかったであろう客層が、これをみて、「ああ、日本映画の良さってこういうものだったよね」と感じ入るのは間違いないだろう。私自身、予定をやりくりして劇場に足を運んでおいてよかったと満足した。

この作品は、映画として、まずその題材に対する目の付け所の面白さ、鋭さがある。これを、うまいエピソードを組み合わせながらバランスの良い物語にまとめあげた脚本もいい。だいたい、なにかとあちこちにでしゃばってくるTVの構成作家とかいう類には好感をもっていないのだが、今回の、この小山薫堂の仕事には素直に敬意を表したいと思う。脚本の筋の良さを活かし、静謐ななかにもユーモアを忘れない大衆娯楽映画として仕上げた滝田洋二郎の演出は、この作品を格段に親しみやすいものにしているし、役者たちからも概ね良い演技を引き出していると思う。長い間企画を暖め、自ら主演して実現させた本木雅弘の佇まいの美しさも特筆すべきものだし、決してTVサイズの画面には収まらない山崎努の怪演技もズバりと決まっている。

もちろん、残念なところもある。全てがよいだけに、ダメなところが目立つ、といってもよい。その筆頭は広末涼子だ。このキャラクターは本来、納棺の仕事にそれなりの偏見や感情をもつはずの「一般の人」、つまり観客の代表としての視点を提供すべき役割としてそこにいるはずである。それなのに、画面の中の彼女は単に心が狭くわがままで偏見をもった嫌な女にしか見えない。昔から思っているが、このひとは演技が下手なだけでなく、声も悪い。一本調子でぎゃーぎゃーわめかれると、本当に辟易とする。このキャスティングは失敗であるし、正直、本来意図されたとおりの役割を果たせないことによって、映画のレベルを落としてすらいると思う。

もうひとつの残念なことは、久石譲の音楽が少々でしゃばりすぎであること。主人公の(元)職業にあわせたチェロを主体としたメインテーマは悪くないのだが、なにぶん、「大衆映画」的に過剰に音楽がついていることもあって、このひと特有のミニマルな反復が耳に障るようになってくる。まあ、この程度のことは、もしかしたら映画で泣きたいと思っている多くの観客の涙腺を刺激するうえでは必要、かつ、効果的なのかもしれないが、もう少々の自制があれば、本作はなお、格の高い仕上がりになったのではないかと思う。

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