9/13/2008

Wanted

ウォンテッド(☆☆☆★)

実のところ、それほど興行的ヒット作に恵まれているわけではないアンジェリーナ・ジョリーだが、本作が1億ドル越えのヒットとなって一安心といったところではないか。本作での彼女は、もしかしたら、過去のどの作品よりも、「観客が観たいと思うアンジー」になっている。まるであてがきをしたような役柄を格好良く演じておいしいところをかっさらっていくのだから、まあ、これで当たらなければ彼女のゴシップ価値はともかく、興行価値に疑問符がつくところだったかもしれない。しかし、続編ができたとして、どうやって出演するか、それが問題だ。何しろ、本作の主人公は彼女ではなく、ジェームズ・マカヴォイなのだから。いっそ、主人公のタナムスさんの出演しない前日譚とかにしちゃうのも手、かな。

さて、アクション新次元とか何とか、派手な口上とともに流された予告編の、奇天烈なアクション描写を見て、正直、期待したというよりは不安になったのが本作である。『マトリックス』の奇妙なアクション映像が成功したのは、変になっても当たり前の物理法則を超越した「仮想世界」という設定があってのことであり、その後のB級作品群は、映像表現だけ後付で真似をしたからそこには何の意味もなく、必然もない。だから、面白くない、あるいはお笑いになってしまったわけである。そういう意味で、現実世界で物理法則を無視する能力を持った殺し屋集団が、温泉に使って怪我を治癒しながら過激なバトルを繰り広げるという本作『ウォンテッド』は、強引な力技だ。その開き直りっぷりがあまりに堂々としているので、突拍子もないアクションもなんでも持ってこい、といったかんじに観客も大嘘に乗せられてしまうといった具合で、まあ、それもありかという気分になる。

カザフスタン出身であの(話が面白くないわけではないが、映画としてはいまひとつ雑で乗り切れない)『ナイトウォッチ』シリーズのティムール・ベクマンベドフとかいう監督の、ハリウッド・デビュー作にあたるわけだが、これまでの作品をみても、あんまり細かいことを気にするタイプじゃないのがいいほうに作用しているんではなかろうか。

もちろん、映画の手柄というよりは原作(コミック)によるものだと思うが、設定が面白い。歴史の影に姿を隠した秘密結社というか、殺し屋集団「フラタニティ」というのがある種の職能集団に根ざしており、織機の生み出す織物のランダムな目の乱れを天命を読み解き、暗殺ターゲットを決め、指令を出してきたなどというあたりの、ありそうでなさそうなトンデモ・アイディアの、なんと素敵なことか!指令を受けて実行する組織だと、そもそも指令を出す「権力」構造との関係に制約を受けてしまい、歴史を超越しようとするとどうしても陳腐な「陰謀」説もどきに堕してしまう。この映画の「フラタニティ」は、自立的な集団である。すなわち、指令を出すのは万能コンピュータ(=神)に相当する機械であり、「ご神託」が授けられ、組織内にそれを解釈する存在がいて、その解釈どおりに実行をする、というかたちをとっている。それゆえに、世俗権力や、世の宗教、他の(胡散臭い)秘密結社とは無縁でいられる。と、同時に、組織内部に自壊要因を抱えていることにもなる。これはなかなか秀逸なアイディアではあるまいか。

織機が織り出す「ご神託」を解釈する男、すなわち、組織の実力者を演じているのが、いつものモーガン爺さんだ。誰が語っても絶対に胡散臭いことを、運転手から神様まで、はては大統領からバットマンの秘密兵器開発係まで演じてしまうモーガン・フリーマンに語らせるだけで、いかんともしがたい説得力が生み出されるマジックを目にするのは楽しいアトラクションである。もちろん、そのマジックに頼っているのはこの作品に限ったことではないのだが、ここまで唯一無二の存在になってしまうと、「モーガン・フリーマンの存在しない世界」を想像するのが恐ろしくもなってくる。だって、そうでしょ。かなりの割合の娯楽映画が成立しなくなるよ!

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