9/23/2008

Hancock

ハンコック(☆☆☆)

ヒーローものといえば、アメコミ原作全盛の昨今。しかし『キングダム 見えざる敵』で名を上げたピーター・バーグ監督によるこの映画、『ハンコック』は、アメコミを原作に持たないオリジナル脚本の作品だ。まあ、ウルトラマンが暴れたら街が破壊されるといった、過去、一瞬だけ面白かった「考察」の類の延長線上というか、無茶をして周囲に甚大な被害をもたらすというので嫌われ者になっている「悩めるヒーロー」の物語である。自暴自棄でアル中で素行の悪い超人というオフビートな役柄にウィル・スミス。この「超人」のイメージチェンジに協力しようとする冴えない男をジェイソン・ベイトマンが、その妻をシャーリーズ・セロンが演じている。

まあ、想像していたよりは面白かった。なにしろ、『キングダム』はともかく、デビュー作『Very Bad Things(ベリー・バッド・ウェディング)』の酷い出来栄えで、コメディの担い手としてのピーター・バーグにはあまり信用を置いていないからだ。

ただ、この作品を一概に「コメディ」と言い切るのには違和感があるかもしれない。なにしろ、いま、興行的に最も安定感のある男、ウィル・スミス主演で独立記念日に公開する大作。製作にはマイケル・マンにアキヴァ・ゴールズマンやら、ジョナサン・モストウまで名前が連なる豪華な布陣だ。人々の注目を集め、大ヒットを宿命付けられている。そんな作品である。だから、「オフビートでオリジナリティの高いコメディ」という側面と、「当代のスーパースターが主演するアクション大作」という側面が、いかに両立・共存しているのかというのが評価のポイントだろう。そして結論を先に言えば、その両立には成功したとは云い難い、中途半端な印象の残る作品だと思う。

実際のところ、この脚本は、確かに業界内で評判をとるだけのオリジナリティがある。主人公が自分に協力してくれる親切な男の、その美人妻にちょっかいを出すというあらぬ展開には思わず吹き出してしまったし、その後の壮大なる痴話喧嘩的ドタバタ騒ぎを経て、「ヒーロー」の持つ神話性のようなところに着地するまとめ方も悪くない。

それゆえに、この脚本が「当代のスーパースターが主演するアクション大作」に向いているのかというと、違うのだと思う。そういう路線を期待する観客は、(それが面白いのかどうkは別として)ほぼ間違いなく「悩めるヒーローがイメージチェンジに苦労するが、強大な敵と戦い勝利を収める過程で自分自身と市民からの尊敬を取り戻す物語」といったような筋立てを期待するものだ。

こういう変化球は、むしろ低予算のコメディにこそ向いている。主人公が、自分協力してくれる善良な男の妻にちょっかいを出す不道徳な展開にしろ、痴話喧嘩の末、けちな犯罪者と対決するという敵らしき敵のないクライマックスにしろ、金をかけた大作映画にしては地味でしみったれている。

コメディ気質をもった軽妙なウィル・スミスは、本来、酒臭くぶっきらぼうで嫌われ者といったキャラクターを、こういうひねくれたコメディで演じるにはぴったりの役者だった。しかし、ここのところの彼は大きな存在になりすぎて、俺様スーパーヒーロー体質が染み付いてしまい、それがスクリーンからぷんぷんと漂ってくるのだからいけない。それもこれも含めて、この企画のパッケージングそのものが誤りだったと云えるのではないか。両立しない2つの要素を、あたかもそんな課題は存在しないかのごとく突っ走った結果がこれ、なんだろう。

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