5/04/2009

Burn After Reading

バーン・アフター・リーディング(☆☆☆)


前作『ノー・カントリー(No Country for Old Men)』ではアカデミー賞を獲ってしまったジョエル&イーサン・コーエン脚本・監督による新作は、デッド・シリアスでダークな前作から一転、本気とも冗談ともつかない馬鹿騒ぎで真剣に遊んでみせる彼ら独特のブラックコメディだ。彼らがジョージ・クルーニーと組んだ作品はどれもコメディ風味だが、これは中でも一番悪ふざけの度合いが高いもので、これを真面目にどうこういうのが損。タイトルどおり、さくっと笑って見終えたら、さっぱりと「読後焼却」すべきタイプの映画である。短い尺にきっちりおさまった本作は、作り手の息抜きでもあるだろうが決して手抜きはなく、人を喰ったブラックコメディとして、こういうのが好きな向きに限定してお勧めだが、映画に「感動」やら「涙」やら「迫力」やら、「真実の愛」やら「うっとりするような美形スター」を求めちゃったりする観客には思いっきり不向きかもしれない。

プロットの基本は、ジョン・マルコヴィッチ、フランシス・マクドーマンド、ブラッド・ピット、ティルダ・スウィントンらが、それぞれの利己的な視点と動機から、本人は真剣なつもりの頭の悪い行動と勘違いを繰り広げ、単純なはずなのに複雑に絡まりあったわけのわからない事態に陥っていくというもので、唯一利己的でも頭が悪くもない普通の人を演じるリチャード・ジェンキンスは、その真っ当さと愛故に割を食い、散々振り回されたCIAは、わけがわからないけど一件落着なんだよな、とケースファイルを閉じるのである。『スパイダーマン』シリーズで例の編集長を演じていたJ.K.シモンズが演じるCIAの上官に説得力のある面白さがあり、映画のはじめと終わりのショットも含め、「残念な人」たちが繰り広げる狂騒を描いたクライム・コメディ映画と見せかけて、膨大な国家予算を費やしてどこに金が消えていくのかわからないCIAとその活動を揶揄するところに真の狙いがあるのだろうと思わされるわけである。

天下のCIAの頭をも惑わす単純だけど複雑な混乱と錯綜を生み出すプロットとその構成は、いつもながら緻密で計算ずく、狙い済ましたように嫌らしい職人技で、絡んでいるようで絡んでいかない人間関係と利害関係が絶妙にもどかしい。こういうのを、「いかにもコーエン・ブラザーズの書きそうな脚本」だと理解しているが、今回は中身の空疎さに磨きがかかっているので余慶に可笑しくも腹立たしい。才能の浪費だとも思うが、正直、毎回『ノー・カントリー』でも疲れてしまうし、どちらが好きなのかと問われたらこっちのほうが数段好きである。

踊る馬鹿キャラを演じる出演者はみな公演。ありえないくらいの絵に描いたような底抜け馬鹿でありながら、その言動ときたら、ついつい身近にもいる人々を思い浮かべてしまうくらいに、妙なリアリティがあって最高にイラつかされるのである。どうしようもなくマンガでありながら、「そんなやついないだろう!」というレベルまでは落ちていかない匙加減は、脚本と役者、両方そろって初めて可能な難易度の高さである。間抜け顔をさらすブラッド・ピットの筋肉バカ加減はビジュアル的に大笑いできるが、フランシス・マクドーマンドの演技は本編中で最凶で、特にロシア大使館のくだりではこのキャラクターをブチ殺してしまいたい衝動が胸の奥から沸き起こってきて大いにストレスがたまったものだ。そんなキャラクターたちにつき合わされているうち、結局一番感情移入できるのがCIAの上官だったりするところで、この映画の術中に落ちたといわざるを得なくなる仕掛け。悔しいけれど、面白い。だからコーエン兄弟なんて大嫌いだけど結構好きだったりもするのだ。

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