5/31/2009

Star Trek (2009)

スター・トレック (2009)(☆☆☆)


まあ、ご存知の通りに歴史のあるシリーズなのである。元祖シリーズの開始は1966年。3年で打ち切られるも1979年に映画で復活。 1991年の第6作まで、続いた。その間の1987年に、元祖の80年後を描く『新スタートレック(TNG)』の放送が開始され、7シーズン続く大ヒットとなった。この最終回が1994年だ。TNGメンバーによる劇場版の公開、すでに始まっていたスピンオフ(DS9)に加えて、後継のシリーズ(VOY)も放送開始。90年代半ば、思えばこのあたりがフランチャイズとしてのピークであった。

TNG劇場版第4作『ネメシス』の興行的不振(2002)、「前史を描く」という触れ込みで始まった『エンタープライズ(ENT)』の打ち切り(2005)で、歴史あるフランチャイズも新展開への命脈は絶たれたと思われた。だが、あきらめの悪いパラマウントは、TV界で成功を収めたJ.J.エイブラムズを担ぎ出し、フランチャイズの再生を委ねたのである。結果としてみれば、作品は大方の観客に好評で、ビジネス的にも大成功。死にかけた看板シリーズの再ブーストに成功したわけだから、おめでたい話といえるだろう。自信を得たパラマウントは、公開前の段階ですでに続編の製作にGOサインを出したという。

そんなわけで、どちらかというと肯定的なムードのなかでこんなこというのは気が引けるが、この作品の出来栄えに対しては複雑な思いである。「われらがヒーローが悪い異星人を懲らしめる」ような活劇としてはテンポが速く、アクションも派手。おなじみのキャラクターを知っていれば、再解釈された若き日の彼らの姿も楽しめるし、ファンサービスとも受け取れる遊びも随所に仕込まれている。楽しめるか、と問われたら、楽しめる映画なのだ。しかし、出来がよいかと問われると、言いたい文句はいっぱいある。

だいたい、『MI:III』のときもそうだったが、J.J.エイブラムズの演出やストーリーテリングの手法は徹頭徹尾TVスクリーン・サイズだ。カメラが対象に近すぎる。バストアップに顔の切り返し。これは小さなTVで見せるための撮り方だ。この作品に、映画らしいスケールを感じさせるシーンがひとつでもあっただろうか。映画館の暗闇に腰を下ろし、スクリーンを見上げる快感がどこにあったか。しかも、カメラは意味もなく揺れ続け、傾き、細かいカットをごちゃごちゃつないで、それが刺激的で迫力のある映像であるかのように装っている浅はかさ。スピード感があるといえばよいが、余裕も余韻もなく、観客の頭を使わせずに麻痺させるような語り口。

『スタートレック』より『スターウォーズ』のほうが好きだったという監督の趣味に合わせたからか、脚本もまた、いかがなものかと思う。人気の高い『スタートレック2:カーンの逆襲』をテンプレートにした時点で、実は新しくもなんともないのである(ちなみに、前作『ネメシス』も、『カーンの逆襲』のパターンを下敷きにしているのだった。)もちろん、本作に盛り込まれた旧来のファンに目配せするかのような小ネタの数々は楽しくもあるが、結局、一介のファンが好きなようにフィクション程度のレベルに過ぎない。一ファンが自分の趣味と妄想で書き散らしたお遊びなら許容できても、これが公式だと云われると違和感を感じないほうがおかしい。自作を正当化するために、「歴史改変」によってこれまでの「正史」を永遠に葬り去るという不遜なまでの思い上がりが、なおのこと不愉快である。(もちろん、旧シリーズとのつながりを確保して過去に築かれた世界観を都合よく利用し、しかし展開に制約を受けず作り直すためのグッド・アイディアだとも思うけれどね。)

役者はそれぞれにオリジナルの雰囲気を巧みに再構成してキャラクターを作り上げており、感心させられた。特に、ドクター・レナード"bones"・マッコイなんか、故ディフォレスト・ケリーの生霊が乗り移っているのかと思える瞬間があったし、モンゴメリー・スコットなんかも笑わせてもらった。あと、褒めておきたいのはJ.J. エイブラムズとのコンビが長いマイケル・ジアッキーノの音楽だ。彼の書いた新しいメインテーマは「スター・トレックのテーマ」というよりは、「(ヒーローとしての)カークのテーマ」のように聞こえるが、はっきりと印象に残るメロディー・ラインを持っており、劇中でも様々にアレンジされて登場、好感を持てる作風である。最後の最後にアレクサンダー・カレッジのファンファーレからTV版テーマの新バージョンにつながるところなど、(いつも聞いている曲なのに)懐かしさで胸が熱くなってしまった。TVテーマのアレンジが軽めなのも新鮮だ。

物語上のフックのためだけに悪役が60億からの生命と文明を根こそぎ奪い、われらがヒーローは相互理解の努力の前にドンパチを繰り広げる。エキサイティングか?まあ、そうだろう。もちろん、スター・トレックはなんでもとりこむことの出来る奥の深さが魅力のひとつ。悪い異星人をやっつけるアクション編もありだし、理屈のおかしい「なんちゃってSF」編も、ご都合主義のタイムトラベル編もありだ。だから、こんな作品が1本くらいあったって構わない。むしろ、この作品に漂うある種の「いい加減さ」と「安っぽさ」は、元祖シリーズのノリに近いとすら思う。しかし、一方で、SFという枠組みを使って現実の社会問題を扱ったり、哲学的な問いかけがあったり、未来への楽観的な希望が語られたりもする、それがスター・トレックなのである。そこがシリーズが長く愛されてきた理由であり、本質だといってもいい。シリーズのクリエイターである故ジーン・ロッデンベリーは、この作品を見たら悲しむに違いあるまい。これでリセットはおしまい、次回作で作り手の理解力と本質が試される。

まあ、個人的には掟破りの方法でヴァルカン破壊をなかったことにするところからお願いしたい。(『スタートレック3』でスポックが蘇ったようにね。)

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