6/18/2011

127 Hours

127時間 (☆☆☆☆)


48時間、96時間ときて、今度は127時間だ!あれ、計算が合わないぞ・・・っていうのではなくて、ダニー・ボイルの新作は、ユタ州内の渓谷で落石に腕を挟まれて脱出不能になった若者が、孤立無援のまま6日間を過ごし、生きるための尋常ならざる決断と行動を起こすまでを描いた実話を題材とした映画である。

主人公のアーロン・ラルストンを演じるジェームズ・フランコは、そういう設定の物語故に全編出突っ張りの一人芝居。アカデミー賞主演男優賞ノミネートを始め、高い評価を勝ち得ることとなったのはご存知のとおりである。(ただ、あの眠そうなアカデミー賞の司会っぷりは最低だったな)。

岩の谷間で身動きできなくなったひとりの男の話を、1本の映画として語って見せるのはなかなかの挑戦である。観る前は、なんだかんだいって単調で退屈なものになるんじゃないかと想像して期待値を下げたりもしていたのだが、そこはそれ、華麗なる映像テクニックとガチャガチャ編集を得意技とするダニー・ボイルのこと、主人公の回想、現在、想像、夢、妄想を巧みにつなぎあわせ、94分を一気に駆け抜けて見せる。題材によってはその技術がドラマを語る邪魔になることもあるが、前作の『スラムドッグ$ミリオネア』といい、これといい、題材に見たりとはまるとそのリズム感、疾走感が圧倒的に心地良い。

最後の最後に主人公が下す決断と、その行動を、逃げずにしっかりと映像化してみせたところもいい。自らの手で、肌すらろくに切れないような鈍い中国製十徳ナイフで右腕の切断を試みる、のである。

これ、言葉にするのは簡単だが、やるとなれば想像を絶する行為である。まずは骨を折るところから始め、ナイフを突き立て、筋肉、腱や神経を切断していく映像だけでも目を塞ぎたくなるのだが、痛さ倍増の音響効果が加わって、耳まで塞ぎたくなることうけあいである。入ってみれば、リアル切り株映画。だが、これはもう、「グロ」っていう単純なものでない。ホラー映画のように、見る人を不快にさせることを目的としていたり、見世物としてのグロ描写でもない。生きるための最後の希望として、歯を食いしばる主人公と観客の心がシンクロし、画面を見つめる我々もまた、必死で歯を食いしばり、失神したりしないように踏ん張るのだ。

こういう描写があると云うがゆえにこの作品を敬遠する向きもあるようだが、しかし、この描写なしには作品は成立しない。鑑賞後の、不思議な清々しさは、あのシーンを乗り越えて初めて獲得できるのである。主人公に同化して、彼の127時間を(安全で快適な映画館で)疑似体験する、これはそういう作品なのだ。

モデルとなったアーロン・ラルストンは「冒険家」を続けているようだが、今度は足を挟まれて "Another 127 hours"なんて続編ができないことを祈るよ、本当。

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