8/06/2011

Edge of Darkness

復讐捜査線(☆☆☆★)

『サイン』以来、役者としてはスクリーンから遠ざかっていて、最近では場外でのお騒がせ発言により映画スターとしての命脈を絶たれたかの感すらあったメル・ギブソンの、久々の復帰作である。セガールあたりにお似合いの安手なアクション映画っぽい邦題からはなかなか想像しづらいのだが、なかなか見応えのあるポリティカル・スリラーである。もともと本作の監督、マーティン・キャンベル自身が1985年に監督したBBCのTVドラマ・シリーズを、米国を舞台とした映画として脚色、リメイクしたものだそうだ。

主人公であるボストン市警のベテラン刑事のところに、大学を卒業して働き始めたばかりの一人娘が訪ねてくるが、その矢先、刑事の家を賊が襲撃し、その銃撃で娘が殺害されてしまう。警察は、主人公に対する怨恨の線で捜査を進めるが、娘の挙動に不審なものを感じていた主人公は独自に捜査を開始、事件の真相に近づいていくうちに、政治と軍需産業が癒着して進めていた極秘裏の核兵器開発と、それに関わる隠蔽工作に行き当たる。

この映画の直接の「悪役」は、技術開発を行う民間企業という表向きの姿を隠れ蓑にした軍需コントラクターで、秘密裏に違法な核兵器の開発を請け負っている。またその事実の漏洩を恐れて隠蔽工作を進める政府関係者たち、軍需企業から献金を受け内部告発を握りつぶす上院議員らもまたしかりである。とりたてて新しくもない構図ともいえるが、眼に見えている現実の裏側にある闇の広がりをうまく感じさせられる脚本になっている。

陰謀の発端はなんでもよいのだが、そこに核兵器の開発が置かれている点は、オリジナルと同じようだ。本作の土台が80年代のTVドラマであり、当時の社会的不安を反映したものだからであろう。そういう意味で、一般的な意味でいえば少々古さを感じないでもない。ただし、国益を語りながら政官財が癒着する構図が放射性物質をめぐって展開されているところや、結果としてドラマに取り込まれた放射線被曝の恐怖などの要素は、3/11後の日本の観客としては現実との不思議なシンクロニシティを感じさせられたりもして、少々背筋寒く、そして面白い。

まあそんなわけで、過度に自粛してお蔵入りさせるのではなく、きちんと公開してくれたことを評価すべきなのだろうが、台詞で「放射線に被曝」とはっきり言っているのにかかわらず、字幕の表現が「感染」だの「発症」だのと、妙に気を使っているのが気持ち悪い。分かる人は分かるのだからこれで良い、という考え方もあるだろうが、こういう「隠蔽」工作は許容したくない。

メル・ギブソンは、愛娘の死の真相の追求と、復讐のために、自らの体を張って挑んでいく男を、年を重ねてもなおギラギラとした危険な雰囲気を漂わせ熱演している。それがあまりに似合うがゆえに、本作が「悪い奴らを皆殺し」的な単純なアクション・スリラーに見えてしまうところが悩ましいところである。役者が異なれば、もう少し知的な雰囲気の作品に仕上がったのではないだろうか。

実のところ、本作で一番面白いのは、主人公ではなく、レイ・ウィンストン演ずる政府が雇った隠蔽工作屋のキャラクターだったりするのである。数々の汚れ仕事に手を染めてきた男だが、この男なりの倫理観や行動規範があり、単純な悪役とは言い切れない味わい深さがある。現実世界の一筋縄では行かぬ複雑さを体現するこのキャラクターに比べると、主役であるメル・ギブソンはいささか粗暴かつ単純過ぎるし、軍需企業の取る対抗策もまた、知的でなく直接的過ぎた。まあそんなところもあるので、こんな邦題にされちゃうのも致し方ないのかもしれぬ。

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