8/20/2011

Shanghai (2010)

シャンハイ (☆☆)


日米開戦前夜の上海を舞台に、新聞記者を装い同僚の死の背景に迫ろうとする米国諜報部員が、死の鍵を握る女の存在に迫ろうとするうち、抗日レジスタンス活動とそれを弾圧する日本軍の緊張関係の中に巻き込まれていく。ワインスタイン・カンパニー製作、『1408号室』の監督・主演コンビであるミカエル・ハフストロームとジョン・キューザック、主人公の上官にデイヴィッド・モース、独の友人にフランカ・ポテンテ、中国裏社会のボスにチョウ・ユンファ、その妻にコン・リー、日本軍将校に渡辺謙、その情婦に菊地凛子。スウェーデン出身監督が米中日のキャストを束ねるという不思議な企画である。

これは史実に埋もれた事実をあぶり出すポリティカル・ミステリーとかサスペンスの類ではなく、ハードボイルド風のメロドラマである。それがたまたま1941年の上海という、とても魅惑的な舞台で展開されるというわけだ。

「探偵役」となる主人公は、殺された同僚が日本軍将校の情婦に接近し、何らかの大きな動き、すなわち、真珠湾攻撃に向けて着々と準備を進めている日本軍の機密情報を収集していたらしいと突き止めていく。ただ、殺しそのものは、結局、全て個人的な愛憎ゆえという、「驚愕」というよりは、むしろありがちな「真実」にたどり着く、という話である。

殺された同僚が、表向きの中立を保つ米国の立場を超えて日本の機密に関わる諜報に深入りしていたという話は、物語の最初から仮説として提示される。さらに、失踪した鍵になる女「スミコ」が日本人であることもあって、捜査のプロセスそのものに「ミステリー」はほぼ、ない。そのかわり、捜査のプロセスで知り合った魅力的な「レジスタンスの女」に肩入れすることで、複雑な人間関係の渦中に巻き込まれていくことになるのである。これもまた、定型通りといっても良い展開だろう。

主人公を演ずるジョン・キューザックは、監督とは前作で組んで気心が知れているというのも起用の理由だろう。彼が一生懸命背伸びをしてハードボイルドを気取っているところは微笑ましくも思うのだが、ちょっと本作を背負うには少々弱いキャスティングではなかったか。陰謀渦巻くなかでの米国の門外漢的な立ち位置、あるいは、ナイーヴさを象徴しているようにも見えるし、情にほだされやすく、純で甘っちょろい面を感じさせる意図もあろうかとは思う。しかし、コメディでもない限り、キューザックがプロフェッショナルな諜報員というのは、俄に信じ難い。それはさておいても、チョウ・ユンファ、コン・リー、渡辺謙といったキャストに囲まれると、そこは役者としての格の違いが出てしまう。

他のキャストでは、チョウ・ユンファは久々に彼に似合ったいい役であるし、見せ場もある。渡辺謙もストイックなイメージを逆手に取って、悪役ながら魅力的な役柄だ。日本で宣伝に駆り出されている菊地凛子は鍵になる情婦の役だが、出番は少なく、アヘン中毒で毛布をかぶって震えているだけ。本作のヒロインは、日本軍に協力する夫を持ちながら、裏でレジスタンス活動を支援するコン・リーで、さすがの美貌と存在感ながら、主人公を翻弄する「運命の女」としては妖しい魅力にかけているように思う。

上海での撮影許可を取り消され、急遽バンコクに建てたという巨大なセットがなかなか壮観で、作品の雰囲気を補強している。作品の性格上、夜間であったり、暗所でのシーンが多いため、せっかくのセットを堪能するまでには至らないのが少々残念である。ミカエル・ハフストロームの演出は、脚本に盛り込まれた複雑な要素を交通整理しながらストーリーを進めるのが精一杯の様子で、あまり余裕を感じられない。まあ、キャリアでも最大規模の作品で、しかも、製作過程で遭遇したトラブルのことを思えば、作品としてまとまっているだけでも立派なものだと云うべきなのかもしれない。

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