8/03/2011

Super !

スーパー!(☆☆☆★)


愛する妻をドラッグ・ディーラーの元締めに寝取られた男が「神の啓示」を受けたと思い込み、自作のコスチュームに身を包んで悪人を成敗する「クリムゾン・ボルト」として活動を始め、町に巣食う売人や、映画館の列に割り込んだ男などに次々と制裁を加えていく。男の正体に気づいたコミック店員のイカレ女を相棒にして、警察の疑惑の目を振り切り、愛する妻の奪還のために危険なディーラーのアジトへの殴り込みを結構する、そんな話。

コスチュームを身に纏い悪と戦うコミックのスーパーヒーローたちがスクリーンを席巻するようになって随分になる。そんななかで、「コスチュームを着て悪と戦う」という行為の異常性についても、こうしたジャンルが自覚的に向き合うテーマの一つとなってきている。この『スーパー!』という映画も、何の変哲もない中年男が自作のコスチュームに見を包んで悪を成敗するという趣向から、昨年の収穫であった『キック・アス』の二番煎じのように見えるのだが、見終わってみれば、さにあらず。

『キック・アス』があくまで虚構世界を舞台にしたファンタジーであり、変則的なヒーロー物としての一線を踏み外さないのに対して、こちらはあくまで現実世界の延長線上でにあって、おそらくは「コスチュームを纏ったヒーロー」という意匠がなくても成立する物語であることが一番大きな違いなのではないか。

なぜなら、これは、神の啓史を受け、神の名において独善的な正義を振りかざすキチガイ男の話であるからだ。

勝手な思い込みが神の名において全てが正当化され、エスカレートしていく気持ち悪さと恐ろしさ。主人公は、TVで観ていた福音派のヘンテコなヒーロー番組に感化され、妄想の中で神の言葉を聞き、触手に脳味噌をタッチされて「選ばれたもの」としての使命感に目覚める。ここのプロセスに宗教を絡めているのは単なる偶然や思いつきではあるまい。

そうはいっても、当然、「悪い奴らはみんなブチ殺してしまえ」という不謹慎な快感もこの映画の魅力の一部である。

これは、多くの勧善懲悪ものに共通する快感ではあるのだが、無遠慮にグロテスクでバイオレント、かつチープな本作の描写は、どこか『悪魔の毒々モンスター』に通ずるものを感じさせられる。それは、本作の監督ジェームjズ・ガンのキャリアがトロマ映画で始まっていることと無縁ではあるまい。その悪趣味ぶりは、主人公の「活躍」ぶりを笑ってみてきた観客に冷水を被せるかのような終盤の、思いも寄らない2つのショッキングな描写にまで貫かれている。まあ、それゆえに本作を受け付けないという人々も多いとは思うが。

そして、これだけむちゃくちゃをやらかした主人公が、ある種のハッピーエンドを迎えるというエンディング。その取って付けた感は黒い笑いどころでもあり、しかし、冴えない男が正しく自尊心を取り戻した感動的な幕引きでもあって、そこに本作のドラマとしての魅力があるだろう。主人公に悪びれたところも反省もないのは、それこそ、宗教の名を借りたら何でも正当化できてしまうという恐ろしさをダメ押しするものと理解することもできるのではないか。

主演のルーク・ウィルソン、エレン・ペイジ、ケヴィン・ベーコン、リヴ・タイラーのメインキャストの仕事が素晴らしい。エレン・ペイジのハジケっぷりは、ただしく『ハード・キャンディ』で世に出てきた女優であることを思い起こさせられるし、ケヴィン・ベーコンの悪役っぷりも堂に入っている。

不謹慎で、低俗で、どこかヤバいところのある不健全な映画である。この映画のスタイルは露悪的というほかないが、しかし、そこには意外なほどに豊かなドラマがあり、重要な示唆を含んでもいる。なにかいけないものを覗き見するかのような、「シネコン」的な健全さとは異なる映画の楽しみがいっぱいの本作は、誰にでもオススメとはいいかねるが、ありきたりの娯楽映画や品行方正な社会派映画に飽きた向きには良い刺激となる1本だと思う。

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