10/02/2011

Hanna

ハンナ(☆☆☆)

物語は雪深く、世の中から隔絶された北欧の森の小屋における父と少女の暮らしで幕を開ける。父親は少女に、ありとあらゆる知識とサバイバル術を仕込んでいるようだ。何のために?ここではその理由を観客に明かさない。この二人には何やら計画があるようだが、それの目的も、全貌も明かされない。CIAが、この小屋から発せられた古い信号をキャッチしたとき、物語が大きく動き出す。

超絶的な身体能力とサバイバル術を身につけた少女がタイトルロールの「ハンナ」である。演じるのは、本作の監督ジョー・ライトが手がけた『つぐない』で注目され、『ラブリー・ボーン』の主演をつとめたシアーシャ・ローナンだ。演技ができる役者にアクションを演らせるというのも昨今のトレンドの一つであるとはいえ、これまたアクションというイメージからは遠い女優である。しかし、もちろん本作の場合、そのギャップが面白いところであって、ドラマの核心でもある。相当のトレーニングを積んだのだろう、体の動きもいいから、絵空事と白けてしまうこともない。

映画は少女がCIAに囚われ、脱出し、追手の手を逃れての逃避行を追うと同時に、別行動をとっている「父親」エリック・バナと、追跡の指揮をとるケイト・ブランシェットの様子を適宜挟み込みつつ、徐々に事の真相を観客に明かしていく構成になっている。観客に対して情報を小出しにするやり口は、一方でキャラクターへの感情移入を難しくするが、そこは役者の力でなんとかなるという読みもあるだろう。事情がわからなくても、とりあえず観客はシアーシャ・ローナンを応援するだろうし、「敵」としての貫禄たっぷりなケイト・ブランシェットは観客の憎悪の対象になるだろう。

しかし、スパイ組織を敵に回してのアクション・スリラーとは、監督ジョー・ライトの、これまでのフィルモグラフィを思えば不思議な選択だから、どんな映画に仕上がるかと不安半分ではあった。が、出来上がりを見れば、これまた器用なものである。リアリティのない物語に、昨今の流行に則ったリアリティ寄りでタイトなアクションと、最小限だが効果的なドラマ演出を絡め、キャラクターの力でストーリーを動かしていく。先にシアーシャ・ローナンの主演が決まっていて、彼女の強いリクエストで監督が決まったらしい。

エリック・バナが演じるキャラクターは少々印象が薄い。彼がハンナとは別行動を取る意味はわかるが、その行動そのものが物語の中で積極的な意味を与えられていない。極論、映画の冒頭で殺されていても大差がないようにも思う。この人の演技が巧いのはわかっているが、どちらかというと映画のなかで埋没してしまう損な役回りが多いよね。

音楽は数多くの映画に楽曲提供の実績があるケミカル・ブラザーズの名義になっていて、本作のためにオリジナルスコアを書いたということのようである。なかなか面白い音で映画の独特の雰囲気を醸成する一助になっている。ところで、映画の冒頭と最後に出てくる、赤地に白抜きのデカい文字で「HANNA」と出るタイトルは、ちょっと、ダサくないか?

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