10/30/2011

ツレがうつになりまして。

ツレがうつになりまして。(☆☆☆★)


同名のコミック・エッセイが話題を呼んでいたことも、NHKでドラマをやっていたことも知っている。が、原作は読んでいないし、ドラマも(全部ちゃんとは)見ていない。が、宮崎あおいと堺雅人が主演の映画になると聞いて、これはぜひ見たいと思い、遅ればせながら劇場に足を運んだ。ということで、原作と比べて云々、ドラマと比べてどうこういうことはできない。もっというと、佐々部清監督の作品を見るのも初めてのような気がする。

これは、少しばかりの啓蒙効果はあるのかもしれないが、鬱病治療のマニュアルのような内容ではない。仕事のストレスをきっかけに鬱病となった夫と、あまり売れていない漫画家の妻が、夫の病をきっかけとして、現実に向き合っていく物語である。

丁寧に作られた良い映画である、と思う。話運びも、見せ方もいい。舞台となる一軒家、近所の風景なども、少し現実の時空間から外れていて、しかし、どことなくほっとする世界だ。そして、なによりも主演の二人が、その実力に違わない好演である。しかも、スクリーン上での相性がいい。いつまでも眺めていたい気分になる、お似合いのカップルである。そして、本当は重い題材のはずなのだが、軽やかで、温かい。

だが、この映画、どう考えても幕引きの場所を間違えた。いろいろ考えた末だとは思うが、思い切りが悪い感じで、かなり惜しい。

終盤、幕の引きどころが幾度となく訪れる。最初の候補は、「結婚同窓会」のくだりだろう。この夫婦はカトリックの教会で結婚式を挙げたようである。同時期に結婚したカップルたちを集めて結婚に対する心構えなどを説く教室でも開いていたのだろう。その延長線上で毎年「同窓会」を開いているのである。そこに参加した主人公夫婦のスピーチは映画のテーマそのものを語っていて、エモーショナルなピーク・ポイントにもなっている。そこで映画を終わっていたとしても全く不思議ではないし、座りも良かったのではないかと思う。

次の候補は、夫婦が庭で会話をするシーンである。妻が、自分が書きたいことをマンガに書けばいいと、そして書きたい題材(つまりは、夫婦の闘病生活)が見つかったと語る場面で、CGIを使って妻の描いたイラストが画面いっぱいに広がるファンタジックなシーンだ。この映画の原作がそうやって描き上げられたコミック・エッセイであることを思えば、先の「同窓会」の後、エピローグ的にここまで引っ張ってから終わるのもスッキリした構成に思える。個人的には、ここで映画を終わらすアイディアが一押しである。。

実際の映画は、これに引き続き、妻の描いたコミック・エッセイが評判を呼んだこと、夫が妻のマネジメントの名目で会社を作ったことなどに触れたあと、夫が乞われて講演会の演台に立つエピソードが描かれる。ここは、もう、本当にバッサリ切ってしかるべき蛇足である。ハッピーエンドらしく、鬱病が回復に向かっているというトーンを出したかったのかもしれないが、そもそもそんなに短期間で治る病気でもあるまい。会場に元上司やらクレーマーやらを大集合させて結論めいたオチをつけたかったのかもしれないが、不自然極まりない。どうしても「その後」的なフォローアップをしたいというのなら、アメグラ方式というのか、ストップ・モーションにテロップで十分だったと思うんだよね。

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