10/29/2011

Rango

ランゴ(☆☆☆☆)


ガラス・ケースで買われていたペットのカメレオンがラスベガス近郊の荒野に投げ出される。生来の演技好きを活かし、偶然も味方して最寄りの町の保安官の座に収まるのだが、水資源をめぐる陰謀に巻き込まれたことで、本物のヒーローとしての資質を問われることになる。

CGIアニメーションによるウェスタン・コメディである。従来はドリームワークス・アニメーション作品の配給だけを手がけていたパラマウントが自ら製作、監督は海賊トリロジーで一山当てた実写畑のゴア・バービンスキーで、実際のアニメーション製作の担当は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)という一風変わった布陣である。

結論だけ先にいえば、この映画、大変面白い。ヒロインに魅力があればもっと良かったとは思うが、少なくともゴア・バービンスキー監督の最高傑作に間違いない。マカロニからSFから近作にいたるまで、様々な映画の記憶をさらりと織りまぜつつ、一本筋の通った物語を語ってみせて、大人をこそ楽しませてくれる。

関西弁が出てくる変なヘンテコ字幕には閉口したが、オリジナル音声で広く公開してくれたことだけは評価したい。(ほんと、アニメになると、どれだけ有名な役者が声を演じていようが、なんでもかんでも吹替版ばかりになってしまう風潮には怒りを感じるよね。)

主人公のカメレオンをジョニー・デップが演じていることが喧伝されていたので、てっきりロバート・ゼメキスの諸作や、ゴラムや猿、アバターなどと同じく、「パフォーマンス・キャプチャー」方式で演技をコンピュータに取り込んだのだと思っていたが、それはどうやら間違っていたようだ。舞台裏を見ると、衣装や小道具を持った役者たちに演技をさせながら声を録って、その演技を参考にしながらアニメーション製作を行ったということのようだ。

そうはいっても、カメレオンの動きは確かにジョニー・デップそのものの演技のように見える。このさじ加減が実に面白い。この映画の製作プロセスのおかげで、実際の人間の演技に縛られてアニメーションとしての本来の面白さを失いがちな「パフォーマンス・キャプチャー式アニメーション映画」とは一線を画すことができたようだ。その一方で、役者たちの特徴的な動きや演技、感情を、アニメーターの解釈というフィルターを通してアニメーションに反映させることで、キャラクターに絶妙なかたちで「命」が吹きこまれている。そこには、アニメーションとしたの楽しさ、面白さがあるべき姿で息づいていると思う。

また、実写畑の監督によるアニメーションという意味では、近作にザック・スナイダーの『ガフールの伝説』があったが、本作のほうが「俳優たちの演技を演出」する余地が大きいんじゃないか。そうだとするなら、実写の監督がプロジェクトの指揮を執る意味も大きいような気がする。

主人公たるジョニー・デップばかりが話題になるが、ネッド・ビーティ演じる亀の「町長」も、ビル・ナイが演じるガラガラヘビも素晴らしい。特に蛇はリー・ヴァン・クリーフをイメージして創りだされたときくと、なるほどね、と思うが、尻尾がガトリング銃になっているというアニメ的な誇張が楽しく、ビル・ナイが特徴的かつ迫力満点のセリフ回しでこれを演じているから、もう最高だ。また、ティモシー・オリファントがワンシーン、ある人物のモノマネをやっているのだが、これも思わず本人?と思わせるほどの「聞き所」になっている。

数々の実写映画でVFXを担当してきたILMゆえに、背景等の作り込みは実写映画に近い写実的な雰囲気である。『WALL/E』、『ヒックとドラゴン』に続き、ヴィジュアル・コンサルタントとして実写のカメラマンであるロジャー・ディーキンスも参画しているから、画面の雰囲気や見せ方は、そういう意味でもアニメである前に「映画」である。そういう意味でもなかなかに見応えのある1本だといえるだろう。

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