3/26/1999

Life is Beautiful (La vita è bella)

ライフ・イズ・ビューティフル(☆☆☆☆)

なんとまあ、ストレートなタイトルで。

第二次大戦前夜のイタリアのトスカーナ地方。本屋を開くために街に出てきた口から先に生まれたような主人公は、道中で出会った小学校の教師に一目惚れ、あの手この手をつくして彼女の心を射止める。息子も生まれて幸せな家庭を築くかにみえたが、ナチスのユダヤ人狩りの手はイタリアにも及び、一家全員で強制収容所に送られてしまう。収容所内の過酷な環境におかれてなお、嘘八百とユーモアのセンスを武器に、息子の命と汚れなき小さな心を守り通そうとする主人公。

大評判になっている本作。イタリアのコメディアンであるロベルト・ベニーニが脚本・監督・主演をこなして描く、ホロコーストを背景に、コメディタッチで描く、さんざん笑わせ、しんみりさせ、感動もさせるドラマだ。

リアリズムの映画ではない。いってみれば、ファンタジーだ。人類史上の悲劇を背景に、笑いを武器にして「人生の素晴らしさ」を描いてみせるという企画。良く練られた脚本と詩情豊かな演出で、心を打つ一本に仕上がった。ホロコーストという重い題材は、それだけで気が重くなる。かといって、それを笑いを交えて描いていいのかという懐疑。でも、そんな憂慮や心配はこの映画を見れば氷解する。

この物語の前半を彩るのはロマンスである。いっちゃなんだが、どこの馬の骨ともいえない主人公が、地元の名士と婚約状態だった美しい女性の心を射止めるまでの展開は、ハリウッドのクラシックなロマンス映画も真っ青の優雅さと繊細さに満ち、名(迷)シーンの連続である。しかし幸せは長く続かない。ユダヤ系でない妻が、それでも収容所への同行を主張して譲らないシーン、収容所内でわずかな隙を突いて(クリエイティブな方法で)自らの無事を妻に伝えようとする主人公の行動。こういう状況でなければ描けないロマンスもある。

そして後半は本作の核になる部分になってくる。主人公の嘘八百とユーモアのセンスを武器に、非人間的な環境をいかに生き延びるのか。いかにして息子を守るのか。ドイツ語が分かりもしないのに通訳をかってでて、勝手な話をでっち上げるシーンなどは、爆笑を呼びつつも底にある「父親の愛情」が胸を打つ。

リアリズムの映画ではないといったのは、主に収容所内の描写である。確かに、現実にはこの映画のように事が運ぶほど甘くはないと云う指摘はもっともなのだろう。ただ、この映画のもつ「ファンタジー性」は、一概に欠点とはいえまい。なぜなら、それが、すなわち戦時下で行われた非人間的な行為を静かに告発する仕掛けとして非常に効果的に働いているからだ。

主演のロベルト・ベニーニは実に良く動き、よく喋る。自分自身で監督しながら暴走寸前で止めることができたのは題材の重さゆえだろうか、まさに絶妙の演技である。妻を演じる女優の意思の強さを秘めた目も美しいが、幼い息子を演じる子役の達者なことには本当に舌を巻く。涙腺の弱い観客はこれにやられること、間違いなしといっておく。

主に笑いのシーンで、やり過ぎて見ていられないほど泥臭くなってしまいそうになる瞬間が何度も訪れるのだが、主観的にいって、なんとかぎりぎりのところで踏みとどまっているように思う。「イタリア映画」だから、どうせベッタベタなんだろうというこちらの先入観をあっさり裏切り、想像以上の洗練具合なのでびっくりした。また、映画を支えている音楽が、いいんだ。ローカル色を出しながら時に牧歌的で、時に物悲しく、しかし、最後まで決して軽やかさを失わない。サントラは愛聴盤になりそうだ。

イタリアならではの、イタリアででしか作り得なかった、しかし、普遍的な映画の魅力に満ちた作品である。まさに、人生は素晴らしい 。

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