3/31/1999

10 Things I Hate About You

恋のからさわぎ(☆☆☆★)

スタッフ・キャストともに耳に馴染みのないティーンズ映画に何を期待できるかもよくわからないまま、TVスポットだけを頼りにとりあえず出かけてみることが多いのだが、そこそこな打率で意外な拾い物にぶつかることもある。そして、本作はそんな一本だ。

ストーリーの骨子にシェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』を借り、恋のゲームがノリと歯切れもよく繰り広げられる本作、軽いロマンティック・コメディが好きな人には、ハイスクールものなんかとバカにせず、一見をお勧めしたい佳作なのである。

ハイスクールに通うタイプの異なる姉妹が紹介される。ジュリア・スタイルズ演じる姉の方は変わり者で反抗的、しかも男嫌いだが、ラリサ・オレイニック演じる妹のほうは学園の人気者で遊びたい盛りである。お固い父親から「姉が誰かと付き合うようになったら、お前のデートも許してやる」との言葉を引き出した妹と、彼女に一目惚れの転校生(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)が一計を案じ、強力な「助っ人」(ヒース・レジャー)を雇い、姉の心を篭絡しようとする。

脚本はカレン・マックラー・ラッツとキルスティン・スミスの女性ライターコンビも、TVを活動の場としている監督のギル・ジュンガーもこれが初の劇場用作品。ほら、出演者の名前を聞いても、脚本・監督の名前を見ても、耳に馴染みがないというのはこのことだ。

この作品が上手くいっている理由の一つは、舞台はハイスクールでありながら、もともとストーリーラインのかっちりした古典を土台にした脚本がよくかけていることだろう。このアプローチはジェーン・オースティン「エマ」を土台とした『クルーレス』や、ラクロ「危険な関係」を土台にした最近のヒット作『クルーエル・インテンションズ』などとも共通するものだ。よく知られた物語を巧みにアップデートすることで、現代性と普遍性を両立させると、時にとても面白い仕上がりになるものなのである。

わりとキャラクター数の多い作品なのだが、無駄なキャラクターはいない。それぞれの役割がはっきりしていて、ぴったりな役者がキャスティングされている。人物の紹介、出し入れがうまく、これを裁く演出にも危なげがなくテンポが良い。

若い役者たちも好演している。本作のヒロインになるジュリア・スタイルズは単純な美人ではなくて、どちらかと云えば個性的である。その容貌も、自己主張が強い感じも、男の観客よりは同世代の女の観客に受けそうだと思う。また、ワイルドな不良役っぽさを前面に出したヒース・レジャーも個性的な容貌をしていて、なんだか一昔前の江口洋介みたいな髪型をして出てくる。こいつはなかなかのインパクトだ。

若い男女の思惑で繰り広げられる軽いノリの恋愛コメディでありながら、ただの馬鹿騒ぎに終わらせることなく、登場人物たちのキャラクターを大事に、そして、その感情を丁寧に、真摯に描けていて、共感の持てる物語になっているところに好感をもった。こういう作品が、アメリカ映画の裾野を広げているのだと思うし、こういう作品の中から、次の世代を担うスターが育ってくるんじゃないかと思う。だからハイスクールものの追っかけも捨てたものじゃない。

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