3/19/1999

True Crime

トゥルー・クライム(☆☆☆★)

クリント・イーストウッド監督・主演の軽量級のサスペンス娯楽。派手さはないんだけれど、独特のリズムがあって、かっちり楽しませてくれる一本である。ジェームス・ウッズ、デニス・レアリーなどが共演している。

今回彼が演じるのは、女たらしのジャーナリスト。ある晩、バーで口説きかけていた若くて有能な同僚記者が帰り道に事故に遭って死亡してしまい、彼女が担当していた記事のあとを継ぐことになるのである。それは、コンビニで働いていた妊娠中の女性店員を殺害したかどで、死刑が確定している黒人工務員の最後の心境を綴るというものだった。その日の真夜中には死刑が執行されるという状況で面会にいった主人公だったが、直感でこの男の無実(つまり冤罪)を信じ、それを証明するために東奔西走することになる。

前作『真夜中のサバナ』は観客を選ぶ映画だったが、そういう映画と、軽い娯楽映画を交互に取っているように見えるイーストウッド、今回は、その「軽い方」である。近作だったら彼の『目撃』をみて、その語り口が気に入った人なら今回もイけると思うんだがどうだろう。

無実の罪で死刑になる一人の男を救う、サスペンスフルでヒロイックな物語のように見えるが、実は物語の核は「主人公の負け犬ぶり」にあって、そこが泣かせるところである。どこかで、この男の誇りをかけた闘いが、「格子の中」の死刑囚のドラマと対をなし、最後には深い余韻を残す。

ドラマティックな筋立てでありながら、無理に感動を強要するようなことをしない、むしろそっけないぐらいの演出が、一度ハマると何とも心地よい。「無罪の証拠」も、やたら小難しい細工をせず実にあっけなく落とすから、これを「ボケた」と口の悪いものは云う。でも、それは違う。この映画は謎解きが主眼ではないのだ。死刑執行間際のサスペンスにしたって、ボタンを押すか押さないかで引っ張るかと思いきや、ここでもまた意表を突いてさらっと流すのだ。

その一方、「証言者の語った通りの映像」と「その場で起こった事実の映像」を両方観客に提示して観客を翻弄するあたり、おや、こんな策を弄したりするんだと意外に感じたり。

さすがにキャラクター描写には厚みがあって面白い。新聞社の上司であるジェームズ・ウッズはそのテンションの高さが笑えるし、主人公に妻を寝取られたデニス・レアリーの複雑な心境も上手く描かれている。死刑囚のカウンセラーを任じている偽善牧師や、有罪を心から信じている訳でもない刑務所長など、出番やセリフの少ない役柄にも、類型的で表面的な善悪(牧師=善、看守=悪)では終わらない人間味が描かれている。死刑囚を尋ねてきた妻と幼い娘、その娘がどこかで落としてしまった緑のクレヨンをめぐる小さなエピソードなどが、「じわり」と効いてくるしかけである。

単純な冤罪と正義をめぐるドラマと見せかけて、気がついてみれば、「イーストウッド映画」としか呼べぬジャンル分け不能なところに持って行ってしまうところが、さすがというのか、なんというのかイーストウッド。あのの歳で女ったらしを平然と演じてしまう彼が、どこか微笑ましいと思える観客に、是非是非オススメしたい。

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